

トルコ南部・ガジアンテップ出身のメルト・アスリさんは、結婚を機に日本で新しい生活を始めた矢先、長年繰り返してきた腰痛が一気に強くなりました。いま、アスリさんが思い描くのは、来年の富士登山、そして夫婦で続ける世界各地への旅です。その展望を持てるようになるまでには、痛みへの不安と治療を選ぶまでの長い迷いがありました。

腰にまつわる最初の記憶は、高校の体育の授業中に一度腰を痛めたこと。ただ、その後は大きなけがもなく過ごしてきました。
痛みがはっきりと生活に入り込んできたのは、2019年頃のことです。トルコでは裁判所で書記官として働く公務員で、一日の大半を机に向かって座って過ごしていました。長い時間、同じ姿勢で書類に向かう毎日のなかで、腰の痛みが顔を出すようになります。
現地の病院ではリハビリやブロック注射を受け、検査では椎間板ヘルニアと診断されました。痛みが強まったときには入院して点滴を受けたこともありましたが、「手術をする必要はない」という説明だったといいます。治療を受けたあと数カ月ほどは落ち着いて過ごせても、また痛みが戻ってくる。その繰り返しでした。
次第に1日~2日で引いてくれる痛みではなくなっていったため、アスリさんは自分でも情報を調べ、重い物を持たない、腰に負担のかかる動作を生活から外すといった工夫を重ねながら過ごしてきました。
結婚を経て来日したのは、2025年8月1日。新しい暮らしと仕事の準備に追われる日々が始まりました。日本でも複数のクリニックを受診しましたが、勧められるのはリハビリやブロック注射で、痛みが大きく変わることはありません。「ブロック注射を続けながら頑張るか、あとは手術しかない」と言われることもありました。
痛みの分岐点になったのが、2025年12月。新居に合わせてソファやベッドを新調し、9月に注文した家具が12月15日頃に届きました。搬入に備えて古いソファを動かし、壁を拭き、冷蔵庫を引き出して裏まで掃除する——重い物を運んだわけではありませんが、腰をかがめる動作が続きました。
「そんなに重い物を持ったわけではないんです。でも新居の掃除をずっとしていて、それから、何をしても痛みが消えなくなりました。」
このとき現れた症状を、アスリさんは振り返ります。
「右腰から臀部、右脚にかけて痛みとしびれが現れ、特に臀部の痛みが強く、歩くことにも支障が出る状態でした。」
「手術という選択肢は、早い段階から頭にありました。それでもためらったのは、周囲に手術を受けた人がいたからです。ヘルニアの痛みはなくなったけれど、その後の感じがよくなかった。歩き方が変わってしまったり車いすになってしまったり、元には戻らないんです。」
背中を押したのは、ご主人の従弟の体験でした。従弟も同じように長く腰痛に悩み、一時は歩くことも難しくなるほどだったといいます。いくつもの医療機関でブロック注射を受けても改善せず、最終的にインターネットでセルゲル法のことを知り1年半ほど前に治療を受けていました。
「決して安い金額ではないけれど、やってみると言って受けたんです。いまはもう、私と変わりません。すっかり元気にしています。」と、ご主人のセフィクさん。
こうした身近な人の変化を実際に見ていたことが受診の決め手になり、ホームページや動画も確認したうえで、2026年1月に初診。
ただ、もともと注射が大の苦手だったアスリさんにとって、治療への不安は小さくありませんでした。「注射は本当に苦手で、最初はもの凄く怖かったです。それでも、どんなに怖くてもいいから、この痛みを終わらせたい、と思いました。」
2026年2月、MRIなどの画像をもとに医師から説明を受け、セルゲル法の治療が行われました。2つのヘルニアのうち一つが大きいものだと確認され、その状態によっては慎重な判断が必要になること、治療後に一時的に症状が強くなる可能性、効果が現れるまでに時間がかかる可能性などについても、事前に説明があったといいます。
「一番小さいリスクから可能性の高いリスクまで本当にしっかり説明してくれました。完全に治る、という言い方もされませんでした。」
良い面だけでなくリスクも丁寧に伝えられたことで、納得して治療に臨めた。アスリさんはそう振り返ります。

治療直後にすべての痛みが消えたわけではありません。術後1週間ほどは痛みが強く、その後、痛みの軽減を少し感じられるようになったものの、劇的な変化というほどではなく、歩くことへの恐怖心も残っていました。1カ月頃にも症状には波がありましたが、しびれや臀部の痛みは改善の傾向を示していきます。
3月からは関連施設のウェルネス東京を受診、リハビリやラジオ体操、入浴、散歩を生活に取り入れました。オゾン療法も3回受けています。注射が苦手なため、点滴による方法を選択しました。
「オゾン療法を受けたことがすごく大きかったですね。そのあとの回復が早かったように感じます。」
これはアスリさん自身の実感です。なお、ここで受けたオゾン療法は点滴による全身的なアプローチで、椎間板内へ直接オゾンを注入する局所治療とは異なります。
3カ月後の記録では、下肢の痛み・しびれ・臀部の痛みは全くなくなり、歩行時に腰痛が残るものの、治療前からは大きく変化していました。
5月には夫婦で中東方面へ旅行。片道16〜17時間のフライトと、その先の車での移動をこなし、機内で腰の痛みをほぼ感じることなく過ごせたといいます。歩くときにはご主人の支えが必要な場面もありましたが、「無事に旅行へ行けた」という経験が、次の一歩への自信になりました。8月にも旅行に出かけていますが、5月の旅行の時よりもさらに調子がよかったと振り返ります。
いま、アスリさんが日々気をつけているのは、腰と足を冷やさないこと。エアコンの風が腰に直接当たらないようにし、こまめに入浴して体を温めています。前屈のように腰を大きく曲げる動作は控え、動画を参考にしたストレッチも続けています。
これらは、アスリさんがご自身の体調と向き合いながら継続しているセルフケアです。

取材時、アスリさんは日常生活では痛みがないと話していました。これから行きたい場所は、数え切れないほどあります。スイスやカナダの自然にも心を惹かれ、モロッコの砂漠も訪ねてみたい場所。9月には韓国へ行く計画もあります。そして、来年8月にとても大きな目標があります。
「富士山に登ってみたいんです。」とのこと。
腰痛は、生活や将来の計画に大きな影を落とすことがあります。アスリさんの体験は、すぐに答えが出ない痛みと向き合いながらも、十分に説明を受け、自分が納得できる選択を重ねていくことの大切さを伝えています。それは痛みの先にある「やりたいこと」をあきらめないために。
「二人で楽しく、健康で世界中を回れるのが一番ですね。」ご主人と目を合わせながら、アスリさんは次の旅へ向けて思いを馳せていました。