

「腰はもう、全然大丈夫。痛みはゼロです」——そう穏やかに話す木賀大輔さんの言葉からは、かつて動くことさえままならなかった日々を想像しにくい。現在は週末に家族と会い、400ccのバイクにも乗る。その日常を取り戻すまでには、仕事、生活、そして将来への不安と向き合った長い時間があった。

腰痛の始まりは2017年夏、介護の現場だった。新しく立ち上がったデイサービスの管理者として働いていた木賀さんは、寝たきりの利用者を介助している最中、背中の奥で「グキッ、ピキッ」と音がしたように感じたという。その場で動けなくなり、帰宅後は階段も上がれなかった。しかし人手不足の現場を離れにくかったため、結局、受診できたのが約2週間後だった。
痛みだけではなかった。送迎車のアクセルやブレーキを踏んでいても、右足の裏から足首にかけて感覚が乏しい。「車が進んでいることは目で分かる。でも、ペダルを踏んでいる感覚がなかった」。病院で画像検査を受け、椎間板ヘルニアの可能性を告げられた。注射や内服薬で症状を抑えながら働き、体調が落ち着く時期もあったが、2021年には今度は左脚に痛みが現れた。リハビリにも週3回通ったものの、楽になる日とつらい日を繰り返した。
腰痛は、身体だけの問題ではなかった。職場で痛みを口にすれば仕事を休むよう勧告されかねない。そんな不安から、木賀さんは症状を言い出せずに抱え込んだ時期があった。「休みたくない。でも体は言うことを聞かない」。働き続けたい思いと、治療に向き合わなければならない現実の間で、気持ちも追い詰められていった。
鬱のように気分が落ち込みイライラする日々の中で仕事にも影響が出た。「施設の新しい入職者があり教育担当になったのですが、対応や言葉がだいぶ荒くなっていたようで、パワハラではないかと疑われたことがありました。」そこまで追い詰められていたのだと後になって思い知ったという。
そのうえ薬を飲み続けていると体のむくみも気になった。運動やセルフケアを勧められても、強い痛みがあるときに何をどこまでしてよいのかは分からない。どうしたらいいのか見えない出口を探し続ける日々が過ぎていった。
転機は2023年夏だった。送迎業務の車から降りようとした瞬間、2017年に初めて腰を痛めたときと似た衝撃的な感覚が体を走り抜けた。両脚に力が入りにくく、中腰のまままったく動けなくなった。たまたま近くを通りかかった妹夫婦に助けを求め、父親にも迎えに来てもらった。自宅では横になることも寝返りを打つことも苦しく、「上半身と下半身が別々になったようだった」と振り返る。仕事を続けられるのかという不安も、日に日に大きくなった。
自宅で情報を探すうち、木賀さんはインターネットの検索窓に「腰痛、超痛い、仕事できない、死ぬ」と打ち込んだ。その検索結果の上位に出てきたのが、腰椎に対する低侵襲の治療法だというセルゲル法だった。試してみたい——そう思い、電話相談を申し込んだ。
これまでの経過を聞いてもらい、検査を受け、説明を受けたうえで、治療を決意する。とはいえ、迷いがなかったわけではない。自由診療のため、費用の面では悩んだ。父親も当初は、インターネットで見つけただけの治療に強い疑問を抱いていたという。それでも当日は妻と父親が同席して説明を聞き、最後は木賀さん自身が納得して決めた。

治療後の変化について、木賀さんは「生まれ変わった感じでした」と表現する。治療の数時間後には父親に代わって車を運転して帰宅し、翌日には、長く続いた痛みがほとんど気にならなくなったという。経過を心配していた家族も、その変化に驚いた。後にバイクで転倒し、腰を打ったときには再び不安になったが、検査で大きな問題はないと説明を受け、ほっとした。
「以前は、右足も左足も感覚が違って、バイクには乗れなかった」。今では400ccのバイクで出かけられる。週末に会う両親から「腰は大丈夫?」と尋ねられるたび、木賀さんは「全然大丈夫」と答える。痛みで仕事も暮らしも狭まった経験があるからこそ、当たり前に歩くこと、座ること、好きな場所へ行けることが、以前とは違って見える。
介護の仕事で多くの利用者と接してきた木賀さんの経験は、痛みを抱える人の言葉を受け止める視点にもなっている。「腰痛は痛みのレベル、効果のある方法や回復の速さも人それぞれ。これをすれば必ずよくなるとは言えない」。だからこそ、納得できる説明を受け、暮らしや仕事の事情も含めて選ぶことが大切だと考えるようになった。
「痛みを我慢して一人で抱え込まないこと。早めに医療機関へ相談し、十分な説明を受けて自分に合う選択肢を考えてほしい」いう木賀さん。再び走り出したバイクの先には、痛みのために止まっていた時間を取り戻すような、木賀さん自身の新しい日常が続いている。
注記:本記事は本人へのインタビューおよび提供資料を基に構成した個人の体験談です。症状、診断、治療の適応や経過には個人差があります。治療を検討する際は、医師の診察・説明を受けたうえで判断してください